気を引くもの

テレビの音だけ聞きながら作業していた時のこと。耳覚えあるCM曲が流れた後、突如3〜4秒の無音が続いた。何事か、と顔を上げて画面を見たが、単に冒頭が無音のCMだった。

あるチェーン展開している飲食店でのこと。新商品やら新サービスやらのカラフルな広告が壁を覆っている中、入り口に一枚だけ、A4の普通の用紙に何か文字が書いてある、業務上の文書のような至ってシンプルな紙が貼られていた。店内で一番簡素な張り紙であるのに、何か只ならぬ、平穏でない雰囲気を醸し出していた為、閉店のお知らせのような類かと思いわざわざ立ち止まって一読したが、ただのポイント制度の導入のお知らせだった。

今の時代、視覚的にも聴覚的にも情報過多である。ガヤガヤと新しい情報が流れてきても、そのうるさい状態が現代の普通である為、特段気にならないし注意もしない。色を多用したりキャラクターを入れたりキャッチーな音楽にしてみたり、色々試行錯誤してもそれによって人目を引くことに成果があるのかは不明である。それよりも、我が一番と目立とうとしている他の広告の中に、全く目立とうとしていない質素で無のものが紛れていたら、そちらの方こそ気になってしまう。

何かとどんどん足していきがちな社会だが、ぐっと引き算されたものにこそ、今の世の中惹かれるのではないだろうか。